トシchannel

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とある雪国でのびのび暮らす自由気ままな医学生。部活も引退して自由になりすぎてブログを始めました。ゆるく読んでね。

【小説】本当の色pert2

これは8章に分けた小説の一話目です。まとめページこちら

8時55分

 【駐輪場】

 一限のチャイムが鳴り響いた時、関口きらと山下賢人は自転車乗り場にいた。ざわつきが収まっていない教室から自転車のカギをとってくるという不自然な動きをしても誰にも声を掛けられず好都合だったが、山下の言う通りになったのが気に食わなかった。

「関口がこんなにすんなりとついてきてくれるとは思わなかった。意外とノリのいい奴なんだな」

「何言ってるの?山下君が急に無謀なこと言い出すからでしょ。で、どこにいけばいいの?」

「お前ノリノリじゃん。んーそうだな。とりあえず自転車出してくれよ」

 そう言って私の自転車の荷台に飛び乗った。

 やはり彼女が行方不明になるというのは相当動揺するものなのだろうか。まさか探す場所の当てもなく話したことさえもない私を連れ出すとは。やはりどうにかしている。

「ちょっと山下君、なにか当てはないわけ?付き合っていたんだから野口さんが行きそうな場所とか二人の思い出の場所とかあるでしょ。それに自分の自転車はないわけ?」

 山下は、とりあえず走りだせば野口の痕跡が見つかるかもしれないなどと言葉を濁している。果たして本当に彼女を探す気があるのだろうか。

 それに山下は、自分の自転車はあるけどカギは教室においてきたから使えないらしい。おれが今から取りに帰ったら、「何やってんだ少し落ち着け」と大騒ぎになるだろと笑っている。それには思わず納得してしまったが、彼を後ろに乗せて二人乗りをしろというのはどうしても解せない。普通二人乗りというのは男性が自転車をこぐものではないのだろうか?しかも今荷台に座っている男は、今日初めて話したあのクラスの人気者山下だぞ。こんなことをしていていいのか。ぶつぶつと文句を言いながらもすんなり自転車にまたがって走りだそうとしている自分に気づいて、今日の私は何かおかしいなと思った。

 右足でペダルを踏みこもうと思うもうまくペダルが動かず右側に大きく傾いてしまう。

「きゃっ、ちょっと山下君重いよ」

「あー男の子に重いなんて口が裂けても言っちゃいけないんだぞ。」

 後ろで山下は楽しそうにおどけている。

「おまえもしかして自転車の二人乗りとかしたことないだろ。」

 からかわれて腹が立ったが事実だったので何も言い返せなかった。やはり、私は野口芽衣とは違う。

 野口はいとも簡単に山下を後ろに乗せて自転車を走らせていたのだろう。山下も野口も非常に運動神経が良い。この前窓の外から体育のソフトボールの授業を覗いたとき、まさに二人が見本として皆の前でキャッチボールをしていて拍手を浴びていた。山下と野口が人気者なのはあのまぶしい笑顔の他に、運動神経が抜群で何事もそつなくこなしてしまうのも要因なのかもしれない。体育の授業を休んでいた私はそんなことを考えながら、少し二人の才能を羨ましがっていた。

「二人の重心を合わせるとうまく乗れるよ。」

 そう言って山下は腰に手を回してきた。顔が赤らむのを感じて恥ずかしくなったが、山下は、「早くいかないと先生に見つかってしまうぞ」といたって真面目に言っているので、ペダルをこぐのに専念した。ただでさえ蒸し暑い陽気の中で、山下の体温も伝わってシャツに汗がにじむ。山下の支えもあってよろめきながらもなんとか学校の門をくぐることが出来た。

 校門からのびる一本道は長い下り坂で、初めての二人乗りでも勢いでうまく下っていくことができた。

 私たちが住む八戸村はとても小さく、高台に位置する八戸高校からは村の大半は見渡せるほどだ。私たち共通の通学路であるこの長い坂の周りは一面リンゴ畑が広がっていて、とてものどかで何もない村だ。

「とりあえず、住宅街の方まで行くかー」

 うしろからのんきなこえが聞こえてくる。つくづく思うが、ほんとに山下は野口を探す気があるのだろうか。私たちが探して解決するものではないだろう。なにか他の目的でもあるのだろうか。

 下り坂が終わってペダルを漕がなければいけなくなった後も考え事をしていたのがいけなかった。少しバランスを崩すと、二人乗りでは体制を立て直せるはずもなく自転車は大きく右側に傾いてしまった。山下の手が腰から離れ、次の瞬間私たちはリンゴ畑の中にあおむけに並んで倒れていた。体のどこも痛くはないのでけがはなさそうでよかった。隣からは、のんきな鼻歌が聞こえてきたから、山下も無事なのだろう。

 それにしても太陽がまぶしい。自転車で風を切っている時はあまり気にならなかったが、真夏の太陽に照らされて、背中とシャツが汗でぴったりとくっついてしまっていた。山下に嫌な思いをさせてないだろうか。

「なんで太陽ってこんな白く輝いているんだろうな…。太陽を書く場合ってみんな赤く書くじゃん?でもこうやって見るとさんさんと輝いていて色は付いてない。不思議だよな」

 山下は不意にこんなことを口に出した。

 確かにそのとおりだと私は思った。こんなに真正面から太陽を見たのはいつぶりだろうか。真っ白でさんさんと輝いている。クラスでの山下や野口と同じだと思った。後ろの席から目をやると彼らはいつもさんさんとかがやいていた。普段の私では口がさけても言えないが、この非日常の状況からか私は思ったことを口に出してしまっていた。

「太陽って山下君みたいだよね。ひと時も休むことなくさんさんと輝いて、まわりを明るく照らしている。ほんと羨ましいよ」

「何言っているんだよ。おれだって頭いいお前が羨ましいよ。いつも後ろの席にいるってことは毎回テストでクラス一位をとってるということだろ」

 わたしのクラスでは定期テストごとに優秀な順に窓際後ろの席になるように席替えをするので確かに今まででクラス順位一位を譲ったことはない。しかし、それは放課後に部活も友達との遊びもしてなくて勉強くらいしかやることがなかったからだし、なにより勉強ができないと何も特徴がなくなってしまうので一学期は焦って勉強したからだ。こんなひっそりと生きてきた私を山下が認識してくれていただけでも驚きなのに、私のことをちゃんと見てくれて頭がいいことを羨ましがってくれるなんて、こんなにうれしいことは他にない。

「山下『賢人』ってほんと名前負けしていていやだな。賢い人になれってもう、お父さんお母さんごめん。俺は関口みたいにはなれないよ」

 隣で彼はそう笑うが。それを言うんだったら私の方が名前負けをしている。関口『きら』ってなんだよ。キラキラした娘に育ってほしいだという願いを込めたのだとしたら私はとてつもなく親不孝だ。

 

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