トシchannel

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とある雪国でのびのび暮らす自由気ままな医学生。部活も引退して自由になりすぎてブログを始めました。ゆるく読んでね。

【小説】本当の色pert5

これは8章に分けた小説の五話目です。まとめページこちら

14時10分

【新井出川】

 ログ・キャビンを後にすると外はさらに蒸し暑くなっていた。涼しい店内に慣れた体が悲鳴を上げ、汗が滝のように噴き出す。さすがのセミでも堪える暑さなのかあんなにうるさかった鳴き声が聞こえなくなっていた。

「いやー暑い暑い。休憩!」

 後ろでただ座っているだけの山下が言っていると思うと腹が立ったが、もう私の足の疲労は限界にきているので彼に従うことにした。

 私と山下は今まで進んできた川沿いのサイクリングロードに自転車を停め、新井出川の河原に足を踏み入れた。青々と生えている芝生がつゆで濡れていてとてもきれいだ。たまらず私たちは靴を脱ぎすてて河原を走り回った後、膝まで水に入りぱちゃばちゃ水をかけあった。

「きゃ、山下君冷たいじゃない!」

「おまえ。こういうことするんだな。案外楽しいやつなんだな」

 そう言って、思いっきり顔に水をかけてきたので、山下を思いっきり突き飛ばしてやった。背中から水面に倒れた彼は、犬のように身震いをして気持ちよさそうだ。

 十分ほど川の中にいただろうか。川遊びにつかれた私たちは、河原に上がって、芝生の上に倒れこんだ。真上で世界を照らしている太陽がまぶしい。やはり太陽は赤く色付いていなく、白かった。

 気温はまだまだ暑いのだが、風通しの良い河原では涼しい風が吹き抜けていく。あまりの気持ちよさと今日一日の疲れで瞼が重くなっていく。こんなにも楽しい一日はいつぶりに過ごしただろう。山下に唐突に話しかけられて始まった今日一日の冒険を頭の中で思い返しながら私は河原で眠りに落ちた。

 

 どのくらい時間がたっただろう。坂の上のサイクリングロードには集団下校をしている小学生が背中いっぱいにランドセルを背負って歩いているから四時を過ぎてしまったのだろうか。一時間以上も寝てしまった。太陽も随分と傾いている。

 この時間に起きたのは山下に肩を揺り動かされたからだ。寝ぼけた耳にもはっきり聞こえるような大きな声で彼は問いかけてきた。

「おまえ、俺に話していない芽衣の秘密知っているだろう。全部教えてくれよ」

 彼の手には私の胸ポケットにあったはずの手帳が握りしめられていた。しまった、寝ている間に読まれてしまったようだ。この手帳には野口芽衣のことが日記として綴られている。一気に眠気がとんだ。

「ちょっと何見ているのよ。野口さんのことなんか何も知らないわよ」

 気が動転していて気が付いた時にはそう叫んでいた。

「勝手にお前の手帳を覗いたのは悪かった。でも俺は、教室で皆を見渡すお前の目がよく芽衣に向けられていることが前から気になっていたんだ。以前からお前と芽衣には何らかの関係があると思っていた。だから今日お前と芽衣を探す旅に出ようと思ったんだ。芽衣のことをもっと知りたいんだ。真実を教えてくれよ」

 はたして、彼は私たちの関係をどこまで知っているのだろうか。野口さんが、いや「メイ」がすべてを山下に話してしまっている可能性も考えたが、私を見つめる山下の目には純粋に真実を知りたい気持ちが表れていたので、山下がすべてを知っているということはないらしい。

「私が全部話したら、山下君の秘密も話してくれる?」

 今日ここまで山下と共に過ごしてきて、山下が「メイ」にむける笑顔だけ、他の子に向ける輝き放った笑顔とは違うものである理由についてますます知りたくなっていた。

山下が「うん」と大きくうなずいたから私は今まで誰にも話したことのない私と「ノグチメイ」の関係について口を開いた。山下に向けて発せられた私の言葉は、私の予想に反してすらすらと私と「メイ」の物語を紡いでいった。私は、心の奥底でこの話をずっと誰かに話したいと思っていたということを知った。

 

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